「自分の名前で生きてるかな多と何者でもない僕。ものすごく邪魔くさい何かがあって、当時はただただモヤモヤしてた」(澤田)
岡嶋:付き合ってる時にデートって、あんまりしなかったよね。
澤田:うん。少なかったよね。僕はまだサラリーマンだったから、カレンダー通りの働き方。かな多はフリーランスだから不規則で、週末、休みにしなくちゃってがんばってくれてたけど、「もう土日、休み取るのしんどい……」って旅行先で急に泣き出したじゃない?
岡嶋:その時もまた、私の思い込みがあったんだよね。好きが深まるのと会う頻度は比例するんじゃないかと思ったりして。仕事がど真ん中の人生だったから、日程を合わせようとしたらだんだん苦しくなっちゃった。でもそのことを伝えたら、「別に休んでなんてひと言も言ってないよ」って。え?本当?? じゃあ働くねー!ってね(笑)。休むことを求められてるって、勝手に思ってたんだよね。
澤田:わんわん泣きながら言ってる内容がそれなの?って笑っちゃったけどね。僕はとにかく、住む世界が違い過ぎるって最初から思ってたから、ずっとけっこう葛藤があって口にできてなかったこともいっぱいあった。
自分の名前で生きてるかな多と、当時はサラリーマンで、何者でもない僕がいて。自分にないものを持ってる人と歩んで行きたいって気持ちがあるのに、ものすごく邪魔くさい何かが自分の中にあったんだろうな。今だからこうやって話せてるけど、当時は、なんかこう、ただただモヤモヤする感じっていうか。
岡嶋:直接聞いたわけじゃないけど、この頃、本棚に並ぶ本がね。「多様性とは」「男とは」に変わっていってたよね。
澤田:だっていちサラリーマンでいたら会えないようなすごい人たちが、しかも日本だけじゃなくて世界中にかな多の周りにはたくさんいてさ。僕もそういう集まりに一緒に出掛けると、かな多は自然に対等に話してるじゃない? それを目の当たりにした時に、あぁ、この人と一緒にいるためには越えなくちゃいけないものがあるんだろうなと。
でも、外で見せてる表情とは違った、なんていうか、吐露してる感じのかな多を僕には見せてるんだって気づいた時に、肩書とか立場で考えちゃってた自分がかっこ悪いなって思っちゃって。ここまで頼ってくれるんだったら、きっと僕には何か使命があるんだろうなって。
「かな多の活躍を特等席で応援し続けたい」っていう気持ちはその時に確信したものだし、これは墓場まで持っていくと思う。
「臆しちゃう気持ち自体は今でもゼロではないけど、全くなくしたいわけでも。そういう部分も含めて、僕だから」(澤田)
「1分もあればすぐ仲良くなって愛されちゃう。『サワディー、次も連れてきてね』って、よく言われたもん」(岡嶋)
岡嶋:あの頃のサワディー、すごく肩に力が入ってたよね。プライドっていうか、自分だってこういうことやってるんだ!みたいなことを言わないと、私の仲間の輪に入れないって誤解してるのかなって。肩書がどうとかじゃなく、人間としてすてきだから一緒にいたいし、私の友だちにも紹介したかった。
「もっといいところがいっぱいあるんだから、話すならそっちを話した方がいいんじゃない」みたいなことをよく言ってたよね。
澤田:あの時の自分から抜け出るのには苦労したね。かな多は「すてきなんだから、そのまま行きなさい」っていうのを、ずっと思っててくれたし、言ってくれていたし。「それじゃ、みんな楽しくないよ」って。でもカチンときたり、嫌な気持ちには全然ならなかったな。だって大人になるとそんなこと言ってくれる人、いないから。
臆しちゃう気持ち自体は今でもゼロではないし、独りよがりな言葉が出ちゃうときもある。でも月日を重ねて、こうやって言語化できるようになったこととか、「あ、今言っちゃっているな」って客観的に見られるようになったのは大きい変化かな。それにさ、全くなくしたいわけでもないんだよね。そういう部分も含めて、僕だから。
岡嶋:私は自分の友だちを見て引かれちゃわないかの方が、よっぽど心配だったんだよね。え?こんな人たちと付き合ってるの?じゃないけど。肩書とかそういうことじゃなく、ほら、キャラ強めの方が時々いるから(笑)。
澤田:うん、いっぱいいるね(笑)。
岡嶋:でも、1分もあれば仲良くなって、今度誕生日会があるってなると「おまえ絶対こいよ!」みたいなことを、出会った夜にはもう言われてて。なんていうか、サワディーはすぐに愛されちゃうんだよね。「サワディー、次も連れてきてね」とか、今もよく言われるもん。
澤田:僕が思うようなことは、みんな全然気にしてなかったよね。すてきな人たちばっかり。
「一緒に参加すると、『あの話は考えさせられるよね』とか、帰ってきてもまた話せたり。二人の関係が濃くなった理由のひとつだったんじゃないかな」(岡嶋)
岡嶋:付き合ってても友だちは別、みたいなカップルもいっぱいいるじゃない? でも、サワディーは私の友だちとすぐに打ち解けてくれて。仲間の共有みたいなものは、結構早い段階からしてたよね。それまで付き合った人とは、どちらかというと友だちは友だちって感じで、すごく新鮮で楽しかった。私は私で、サワディーの飲みの場にも参加させてもらってたしね。
職業柄なのか、仕事に関わらず、どんな人も面白いなって思ってしまうというか。なんでその仕事を選んだんだろう、その中での人生の楽しみって何なんだろうとか。サワディーの周りはきちんとしたお勤めの人が多くて、それこそ私の業界の雰囲気とは違ったけど、そこに入っていっても違和感とかはなくて、とにかく楽しかった。
それに、ばらばらに遊びに行っちゃうと、「×××っていう話があったんだけど……」みたいに伝えても、「へー」で終わっちゃう。でも二人ともその場にいれば、「あの人めっちゃ面白かったねー」とか「あの話は考えさせられるよね」とか、共感して、それでまた話したり、議論ができたり。結婚までの付き合った期間は短かったけど、二人の関係が濃くなった理由のひとつだったんじゃないかな。
澤田:そういえば、付き合ってる頃も今も、ケンカとかすれ違いってほとんどないよね。
岡嶋:話すことで、ケンカになる前に火種を消せてるっていうのは、あるかもしれない。何か思うことがあれば、「ちょっとお話があります」みたいな(笑)。他の夫婦はわからないけど、お互いが何を大切にしてるかとか、その時々の価値観とかは自然と共有できてる気がする。